「手をつなぐ育成会」の前身「精神薄弱児親の会」が東京を中心に結成されたのは戦後間もない1952年のことです。それに力を得て、松江市でも3人の母親たちが子どものためにと集ったのが、当会の始まりだと聞いています。その当時は、障害児の親にとって大変辛く厳しい時代だったと想像します。
日々の大変な子育てに加え、先の見えない不安や世間の偏見などを一人で抱え込むしかない時代でした。「親の会」の会員となって、同じ思いを持つ親同士のつながりで得た「一人じゃない」という安心感の上で「一人では解決できない」問題に取り組んできました。多くの会員に支えられ、行政や周りの人々を巻き込んで活動する団体となり、教育や安心安全な生活の夢を一つひとつ実現してきました。
1995年に精神薄弱の言葉が法律から消え、また北欧からやってきたノーマライゼーションの言葉が一般化されるようになりました。知的障害児者の人権など誰も考えない時代から、子どもの代弁者として活動していた「親の会」でしたが、日本でも本人部が作られ、名称も「手をつなぐ育成会」と変わりました。私たちの会も「松江市手をつなぐ育成会」となり、本人部ができました。
21世紀になり、支援費制度を経て障害者自立支援法が施行されて、措置から契約へと障害福祉サービスは大きな転換を迎えました。他にも遺伝子、脳や感覚の研究が進み、障害による生きづらさが科学的に解明されるようにもなって来ています。障害の定義も変わってきました。「合理的配慮」や「本人の意思尊重」といった言葉もよく聞かれるようになってきました。
障害児者に対する支援制度やサービスがずいぶん整い、また虐待や差別からも守られる法律もできて、会の設立当初から比べると親の不安や心配は軽減されてきていると言っていいでしょう。喜ばしいことです。今までの「親の会」活動のお蔭といえますが、豊かになるにつれて親の会員が減っていっているとしたら、それは少々考えさせられることです。
親の部会存続が危ぶまれるほどの会員減の一方で、本人部会員は増加しています。ようやく本人たちの生活や思いに、親はもちろん世間の目が向けられてきたからでしょう。力をつけてきた本人たちの発言や活動には、目を見張るものがあります。これまで障害があるからと、本人の力や気持ちに沿った育ちや教育をおこなってきていなかったからだと反省させられます。育ててきた親や関係者には、この活動を見守る責任があると感じます。
私たちを取り巻く社会は変わってきています。親の問題意識も当然大きく変わっています。しかし決して障害児者の問題が解決しているわけではありません。新しい時代には新しい時代の課題があります。その解決には社会全体で取り組む必要があると訴え続ける使命が、私たちにはあると思います。今まで活動してきた多くの「親」の思いをつなぎ、半世紀以上にわたって連綿と続いてきた「松江市手をつなぐ育成会」です。
今まで通りの活動から変わっていく必要性必然性を強く持ち、この会をしっかりと次世代に引き継ぐために、NPO法人(特定非営利活動法人)にすることを決めました。
NPO法人を設立するにあたって、私たちの思いは以下の通りです。
① 本人部活動、本人の思いを大事にしたい。幼児・学齢期の人たちの育ちを大事にしたい。本人たちの辛さや不安、希望や夢をわかりたい。それを社会に伝えたい。
②
今までの親支援の活動を続けたい。同じ思いの人とつながりたい、同じ経験をした人から話を聞きたいといった思いはいつの時代も変わらない。障害児の子育てのしんどさや親亡き後の心配といった辛さや悩みは変わっていない。同じ思いをしている人とのつながりは家族それぞれの「生きる力」となっている。今までやってきた情報提供や話し合いなどの「親や家族支援」を時代に合わせつつ、また様々な機関と連携して企画していく。
③ 活動で得た問題点や解決方策を広く市民に知らせるために、行政等関係機関に伝えるために、また親の目線でサービス事業所のオンブズマン的役割を担うために、社会的に認められた法人として存在したい。
会は、松江市及び松江市周辺において障害児者及びその家族を支援し、その人格と個性を尊重しつつ、障害児者についての市民と社会の理解を深めることによって、医療環境・教育環境・社会環境を改善する活動を行ない、障害児者の社会参加と自立を図り、共生社会の実現を目指すことを目的とします。
(定款第4条より)
会は、その目的を達成するため、次に掲げる種類の特定非営利活動を行ないます。
(1)保健、医療又は福祉の増進を図る活動
(2)社会教育の推進を図る活動
(3)人権の擁護又は平和の推進を図る活動
(4)子どもの健全育成を図る活動
(5)職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
(6)前各号に掲げる活動を行なう団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
会は、その目的を達成するために次の特定非営利活動に係る事業を行ないます。
(1)障害児者の社会参加と自立を促進するための事業
(2)障害児者及びその家族の支援に関する事業
(3)前2号の実践とその成果をもって行政へ施策を提言する事業
(4)会の目的に資する情報発信に関する事業
(5)その他第3条の目的を達成するために必要な事業